東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)89号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の事由があるかどうかについて判断する。
成立について争いのない甲第三号証の一、二によれば、本願考案の願書に添付された明細書の考案の詳細な説明の項に、本願考案の解決すべき課題に関し、「従来、例えば磁気テープをケースに内蔵させたテープカートリツ ジ、テープカセツトを用いる磁気記録再生装置においては、そのケースの形状がほぼ前後対称の箱形状をなしているため、更にいえばケース部分に顕著な突出部がないため、間違つてテープカートリツジなどを裏返しに挿入し易く、この場合にはその装置内のテープ送り出しローラやリール軸突出機構ならびにこのテープカートリツジ自体を破損させる原因となるものであつた。」との記載があり、その目的に関し、「本考案は、前記問題点を解決し得る収納ケースを提供したものであり、」「収納ケースを間違つて裏返しに挿入しようとした場合にはストツパーにそのケース部分が衝合して収納ケースの挿入を阻止する、いわゆる誤挿入を防止し得る収納ケースを提供することにある。」との記載があることが認められる。
右認定によれば、本願考案は、従来の誤挿入され易い、前後がほぼ対称をなしている箱形状の収納ケースが誤挿入されるのを防ぐための構成を採つたところにその目的なり要旨なりがあるものというべきであるところ、成立について争いのない甲第二号証によれば、甲第二号証刊行物記載の磁気テープを内蔵するマガジン51の形状は、全体として長方形ではあるが、上面と下面の形状は全く異なり、その装着方向に対して後面は、ハンドル52が突出し、両側面の後面側には張出し耳64が突出しているものであることが認められ、第1図に示された装着状態を参照すれば、マガジン51は記録再生装置50上に裏返しないしは前後反対に装着されるおそれは全くないものというべきであり、そもそも甲第二号証刊行物記載の発明は記録再生装置上に収納ケースを誤つて上下あるいは前後逆に挿入することを防止するという思想は片鱗だにもつておらず、誤挿入を防止することを目的とする発明であるとは認められない。
審決は、本願考案と甲第二号証刊行物記載のものとを対比し、両者は「箱形状をなす記録媒体収納ケースを記録及び/又は再生装置の収納ケースに、テーパを附したガイドを設け、該ケースの嵌入を便利にするとともに、誤挿入を防止するようにした記録媒体収納ケースである点で一致する」とするが、甲第二号証刊行物記載のものが、そこに記載されたような構成をとることにより、結果として収納ケースが記録、再生装置に誤つて挿入されることを防ぐことはあつても、そのことの故に甲第二号証刊行物記載のものも誤挿入を防止するようにしたものであるということができないことは前に説明したところから明らかであり、誤挿入を防止するようにしたものであるという点でこれを引用することはできず、したがつて、審決の本願考案と甲第二号証刊行物記載のものとはともに誤挿入を防止するようにした記録媒体収納ケースである点で一致するとの認定は誤つているものといわなければならない。そして、審決はこの誤つた判断を前提として本願考案は甲号各証刊行物に記載されているものに基づいてきわめて容易に考案することができたとの結論に到達しているものであるから、違法として取消しを免れない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
ほぼ前後対称形の箱形状をなす記録媒体収納ケースを記録及び/又は再生装置の収納ケース挿入口に挿入する際、前記記録媒体収納ケースの誤挿入を防止するため、この記録媒体収納ケースの側面の前方に、前記挿入方向に拡開するガイド部を設けると共に、このガイド部と連設し、かつ、前記記録媒体収納ケースの側面に、この記録媒体収納ケースの挿入方向に延在する長溝部を設けてなる誤挿入防止用記録媒体収納ケース。